BtoBの商品企画や新規用途探索で、こんな判断をしたことはありませんか。
「営業から何も上がってこないし、その市場はニーズがないんだろう」
私もこの前提を疑わずに市場調査を進めていました。しかし、ある調査をきっかけにその考えが崩れました。今回は、その経験と、そこから抽象化した調査の型を紹介します。
発端:既存製品を隣の市場へ広げたい
ある産業機器に、特定の液体で起きるトラブルを防ぐ機構を備えた製品がありました。すでに一部の用途では実績があります。
そこで立てた仮説はシンプルでした。
「同じトラブルが起きる液体はほかにもあるはず。そこに展開すれば売れるのではないか」
トラブルを起こしやすい性質を持つ液体を洗い出し、それが使われる用途や業界をデスクリサーチで広げていきました。候補はすぐに数十に膨らみました。
壁:広げたはいいが、絞れない
社内レビューで最初に受けた指摘はこれでした。
「なぜこの市場に絞ったのか、ロジックがない」
正直、感覚で絞っていました。そこで、製品が本当に効く条件まで立ち返りました。
今回の機構が価値を発揮するのは、ごく少量の液体を精密に送る場面です。大量に流す工程では、そもそもトラブルが起きにくい。つまり「液体の性質」ではなく**「使われ方(流量・工程)」で絞る**べきだったのです。
もう一つの学びは、外した市場を消さないことです。外した理由を添えてグレーアウトしておくと、後から見直す際の議論が格段に速くなります。
転機:競合のカタログに”答え”があった
絞り込みと並行して、競合各社のラインナップと自社を突き合わせました。
すると、ある液体について次の事実が見えてきました。
- 競合は、トラブル対策機構付きの製品で、その液体への対応を明記している
- 自社は、材質と機構の組合せの都合で、対策機構付きの選択肢を用意できていない
- 自社には、その液体でのトラブル相談がほとんど来ていない
ここで、最初の前提が揺らぎました。
相談が来ないのは、困っていないからではない。そもそも自社が選択肢に入っていないからではないか。
競合がわざわざカタログに明記するということは、一定の需要がある証拠です。そして空白の原因を分解すると、既存部品の組替えで対応できる可能性も見えてきました。開発コストが小さく、需要の存在シグナルもある。優先度の高い仮説に一気に浮上しました。
(この仮説は現在検証中です。結果が出たら続報を書きます)
気づき:「需要の不在」と「想起の不在」は別物
今回の一番の学びはこれです。
問い合わせがない ≠ 需要がない
自社に声がかからない理由は、大きく二つに分けられます。
- 需要の不在:顧客がそもそも困っていない
- 想起の不在:困っているが、自社が選択肢に入っていない
社内の情報だけを見ていると、後者は構造的に見えません。困っている顧客は、黙って競合を選んでいるからです。この区別をつける手がかりになるのが、競合のラインナップでした。
抽象化:用途探索 × ラインナップ・ギャップ分析の7ステップ
今回の流れを、再利用できる型にまとめました。
1. 起点
既存製品が解決している課題を、隣接市場に広げる仮説を立てる
2. 拡散
課題を生む条件から、対象→用途→業界へと候補を広げる
3. 収束
製品が効く条件(使われ方)でスクリーニングする。外した理由は消さずに残す
4. 競合突合
競合が明記している対応用途を「需要の存在シグナル」として拾う
5. 空白の分解
自社が対応できない原因を、材質・機構・仕様などの組合せに分解する
6. 規模の逆算
「競合の用途別販売数 × 奪取目標シェア」で参入余地を試算する
7. 限界宣言
社内情報で分かる範囲を明示し、外部調査や現場ヒアリングに切り替える
優先度は「参入余地 ÷ 開発難易度」で判断すると、議論が噛み合いやすくなります。
明日から使えるチェックリスト
- 「問い合わせがない」を、需要がない根拠にしていないか
- 候補市場を、対象の性質ではなく使われ方で絞っているか
- 外した市場に理由を残しているか
- 競合カタログを「需要の証拠」として読んでいるか
- 自社の空白を、作れない理由の組合せまで分解しているか
- 社内で分からないことを、分からないと宣言できているか
おわりに
市場調査というと、データを集めて市場規模を出すことに意識が向きがちです。しかし本当に価値があるのは、社内の常識が見落としている構造に気づくことだと感じています。
「声が上がってこない市場」こそ、一度競合の目線で見直してみてください。
MLE Marketing Studioでは、BtoB製造業の商品企画・用途探索・競合分析のご支援を行っています。ご相談はお気軽にどうぞ。

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